Lと花沢類の物語。2次創作です。BL要素を含んでいます。
あらかじめ、ご了承ください。
Lのあこがれランキングの旅、続きです。しつこく続きます。ごめんね。(2012-11-24 )
(前回まで)
あこがれランキング 《ぜったいL〜♪》258
声をかけると、 あなたはゆっくり振り返った。《ぜったいL〜♪》259
思い出は忘れ形見 《ぜったいL〜♪》260
思い出をなくせば、ひとは・・・
《ぜったいL〜♪》261
2012-11-24
あなたの《あこがれランキング》の旅は終わったのか?
この3時間のタクシー移動の後もそれはまだ続くのか?
こてん、と寝てしまったあなたの寝顔は、
ずっと録画状態にしておきたいほど愛らしいのだが、
なんでこうなったんだ、と私は自己嫌悪に陥る。
私の不機嫌を空気で読んでいるのか、
運転手はほぼ無言だ。殊勝なこころがけだ。
だが、しかし、この3時間・・・。
「三堂さん、タフですね。その体力に憧れます」
「はっ? ま・・まだ寝る時間じゃありませんし。
このあと、夜は長いですよ」
この言葉を反芻しろ、と私は言いたい、
突然目をさまし、いきなり私の胸を射たあなたの言葉。
私のやけくそな気持ちが伝わるといいです。
いや、やけくそというか、精一杯の挑発というか。
「○○へ行ってどうするんですか?」
「はい、温泉に入りたいです」
「えっ、温泉ですか?」
「いけませんか?」
「そ、そんなことはありません」
何なんだこの展開は。
取り乱すではないですか。
温泉に入るんですか。
ああ、そういえば、温泉地としては結構有名かもしれない、○○。
というか、あなたと私が温泉に入っていいんだろうか。
いいですよね、普通は、男同士なんだし、
温泉地では何を恥ずかしがることがあるでしょう。
野郎二人で目立つとこでもないし。
と言いつつ、動揺が。
あなたは綺麗だし、その、
ある時は幼い少年のように無垢な雰囲気を醸し出し、
そしてそうでないときには、
やっかいなことに、とてつもないエロティックな、
フェロモンを全身から発するのだ、
目もあてられないくらいの。
傍らの人間にも影響を及ぼすその存在感。
私がそういう場面での当事者になろうとは、
夢にも思っていなかった。
ああ、なんだか、気分は最悪です。
でも、なぜ最悪にならなければならないのか、
混乱をきわめる、私のこころ。
「三堂さん、気分が悪いんですか? 黙ってしまって」
「え?」
「嘘です」
いや、たぶん、見抜いているんでしょう。
あなたなんですから。
口に出さないあなたはよほど意地が悪い。
あなたはバッグから袋菓子を取り出した。
あまりに庶民的な、キャラメルのかかったポップコーンだ。
「三堂さん、あーん」
「は?」
何が起こったかと思う間もなく、
あなたがポップコーンを私の唇のあいだに押し込んだ。
「鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている、という形容に
97パーセント適合する表情です」
こんなに甘いだけのポップコーンは嫌いなのに、
嫌いなはずなのに、
なんだか美味い気がするのはどうしてなんだ。
「温泉、楽しみですね。背中流して差し上げますね」
「L、本気ですか?」
「はい、流すくらい私にもできますよ?」
心臓がばくばくしている。
あなたがそばにいるだけで、
あなたを感じているだけで、
そういう密やかな楽しみが私には合っているというのに。
許容範囲を超えるではないか。
両ほほをポップコーンでいっぱいにしたあなたは、
まるでリスだ。
リスがちらりと上から目線で私を見たぞ、確かに今。
動揺していてどうするんだ!
「ねえ、L。聞いてもいいですか?」
こういうときは温泉からひとまず話題をそらすに限る。
「事と次第によっては」
つまらなさそうにあなたが答える。
「あやこさんは何のために訪ねたんですか。
頼まれものは送っても差し支えないものに思えましたが」
「はい、そうですね」
あなたはそう言うと、座席の上でひざを抱えた。
「さよならを言ってきてくれと言われたんです」
「さよならと?せつさんってひとからですか」
それは不思議な依頼だ。
「はい。せつさんはもう長旅は辛いからと言いました。
それにあやこさんに逢っても、せつさんがわからないからと」
「でも逢えばわかるかもしれないじゃないですか」
「3パーセント未満の確率のようですが。万一、わかったとしても、
それがあやこさんにとって幸せなのかどうか、
せつさんにはわからないそうです」
「幼馴染なんでしょう? 再会は幸せなはずですよ」
「あやこさんがすっかりこどもに帰っているなら、
自分のわがままで引き戻したくないそうです」
そう言ってあなたは親指を口にくわえた。
「私にはよくわかりません。三堂さんにはわかりますか?」
私には咄嗟に言葉が出なかった。
「再会するのはこっちのエゴってことなんですかね」
「私には幼馴染と呼べるようなひとがいないのです。
友だち同士は時間を飛び越えられないのでしょうか。
あやこさんとせつさんはつい2,3年前まで
交流があったそうですが」
タクシーは田舎道を走り続ける。
この遠さが、すなわち、せつさんからあやこさんへの
距離なのかもしれないと、ふと思った。
「記憶が途切れたら、ほかのひとたちと距離は変わらなくなるんですね」
あなたはそう言って、私をじっと見つめた。
「それはとても悲しいことです」
そうだ、人間なんて、はかないものなんだよ。
誰かとの記憶は頭の中に、胸の中に書きとめてゆくものだから。
そこが壊れちゃったら、もう取り返せない。
「デジタルで保存できませんよね、L、あなたでもさすがに」
「まだ数式に置き換えられる分野ではありませんからね」
ふっと、あなたが力の抜けた笑みを、ほんの少し浮かべた。
「私はものを忘れるということがありませんが、
置き場所を忘れます」
「忘れていることを忘れるんですか」
「いえ、違います。記憶の置き場所ですよ」
「たとえばあの頃の・・」
そう言って、私は思いとどまった。
いや、たぶんあなたはもう私の言わんとすることを、
あれこれ解析ずみだろうけれど。
たしかに、私があなたにあの夜夜のことを話せば、
印象的なエピソードを話せば、
あなたはその置き場所から記憶を引きずり出してくるかもしれない。
でも、それはあなたにとっては残酷なことなんだろう。
私はあなたにそれを思い出させようとして、
共有しようとして、再会してのち、
独り相撲してきたのではなかっただろうか。
残酷なことをしてきたのか。
タクシーが急にとまった。
「は?」と我に返ると、
あなたが、「降りてください、三堂さん」と
反対側のドアを指差した。
「え、どうしたんですか。まだ1時間と走ってないですよ」
「42分です。飽きたので、あれで行きます」
そう言って、あなたが指差した先には、ヘリコプターが駐機していた。
「あれでって・・」
「車のなかでお尻とかあちこち、痛くなりました。
耐えられません」
あなたはジーンズのポケットから無造作に黒いカードを取り出し、
タクシーの運転手に差し出した。
(続く)
年内に終わるのだろうか。続いてしまいました。ごめん。