Lと花沢類の物語。2次創作です。
BL要素を含んでいますので、ご了承ください。
Lのひとり旅に三堂が無理やり同行するお話。後編です。
(2012-10-13 )
すみません。前編はこちらから
思い出は忘れ形見
《ぜったいL〜♪》260
2012-10-13
もうひとつ先の終着駅まで行っても行かなくても、
風景が変わりそうにない田舎の風景が続いていた。
遠くに小高い山が連なって、
のっぺりとした田んぼが濃い緑の穂を風にそよがせていた。
もう夕方に差し掛かろうとしていたけれど、
日差しは容赦なかった。
ただひたすらに暑かった。
あなたは涼しげな表情で、でも、シャツの背中には汗がにじんでいる。
甘いんだろうな。
その匂いをかぐ妄想に頬がゆるむ。
「さすがに疲れました」
いや、暑いけど、まだ5分と歩いていないのに。
「タクシー遅いですね」
「え、呼んだんですか。いつ?」
「この位置に来る予定です。ドライバーがとりわけ愚鈍な方でなければ」
なんの目印もないこのあぜ道のような田舎道に、か。
私の質問には答えないで、あなたはためいきをつく。
肩から斜めにかけていたかばんを無造作に下に置いて、
あなたはその上にちょこんと腰をおろす。
「溶けそうです。あ、溶けてきました」
頭に細くて白い手を載せて、あなたは不機嫌そうにつぶやいた。
私はハンカチを取り出して、あなたの額に浮かんだ汗のつぶに
ゆっくりとあてがう。
あなたはされるがままになっている。
ちいさな至福、このうだるような暑さがなければ。
「目的地はまだ遠いんですか」
「ええ、あの山のふもとです。鉄道が発達していないので、
このあたりはたいへんです。路線バスは一日3便。最悪です」
降りた駅近くにバスの停留所はなかったけどなあ、
どこからどこに・・と考えて、所詮わからないことと諦めた。
「あこがれランキングなんですよね、この旅は」
「はい。私の知らないものです。生まれる前の世界ですから」
「え、生まれる前の世界?」
「はい。知識で知っているのと、体験するのとは違います。
君は部屋の外に出たことがないから、とさんざんイヤミを言われましたが、
今になると、その指摘は正しいと、私も認めざるを得ないようになりました」
あなたは細長くて美しい指を噛んだ。
「遠いところをよくおいでくださいました」
歳の頃なら60半ばかと思われる、白髪まじりの上品そうなご婦人が
あなたと私を玄関先で出迎えた。
背筋がまっすぐに伸びた女性だった。
アイロンがしっかりかかった白いシャツにぴったりとした紺色のスカート、
きっちりとまとめ上げている髪はほつれがまったくなくて。
田舎で暮らしているひとらしくない、というのは偏見かもしれないが、
でも、控えめな微笑は感じのよいものだった。
「あやこさんはご在宅ですか?」
斜めがけしたかばんのなかから、あなたは無造作に風呂敷包みを取り出した。
何一つ事情を知らない私は突っ立ったまま、見守るしかなかった。
2時間ものあいだ、タクシーを待たせて、
あなたが《あこがれランキング》の旅でしたことといったら、
白髪をおさげに編んでもらったおばあさんとの手遊びだけだった。
庭に面した縁側に腰をおろして、
あなたはせつさんからのおみやげですよ、とおてだまやおはじきや
あやとりの糸や、布で作った人形などを出しては、
あやこさんを喜ばせた。
あやこさんは昔の歌らしい歌をうたい、おてだまを器用にあやつっては、
あなたにしてみるように命じた。
あなたは引いていたけれど、すぐさま、あやこさんの期待以上の腕前を見せた。
淡々と歌うあなたの声。
恥ずかしいんだろうなあとその無表情の横顔に私はあたたかい気持ちになる。
遠くで鐘の音がしたとき、あやこさんは立ち上がってうちに帰ると大声で言った。
その時ばかりはうろたえたけれど、あなたはもう少し遊んでください、と言い、
あやこさんをその場に引き戻した。
あやこさんはやがて私の手をとり、あやとりを教えはじめた。
しわくちゃの手が私の手をさすり、お兄さんは働き者だと言ってくれた。
一瞬、私は動揺した。見知らぬひとなのに、この優しさは何だろう、
しかも、このひとは明らかに・・・。
家を辞す前にあなたはあやこさんと写真に収まった。
あやこさんは今までの可愛らしい笑顔を忘れたかのように、
何を言っても表情は固いままだったのだが、
あなたは「三堂さん、遅いですよ」とデジカメのシャッターを促した。
あやこさんはあなたと私の手を両手で握って、また遊ぼうと笑った。
この笑顔を写真に残したかったのに、と
私は悔しい気持ちだった。
タクシーに乗り込む。
あやこさんと身内の女性が見送ってくれたが、
あやこさんはじきに興味をうしなったらしく、
さっさと家の中に入ってしまった。
「お疲れ様でした。あやこさん、可愛かったですね」
あなたはおみやげにもらった包みをほどく。
「こっちはおはぎで、これはクッキーです。やったあです」
私の頭のなかには疑問符が右往左往しているというのに。
いい気なものだな。でも、ほっとする。
あなたはきっと何か大役を果たしたのだろうから。
《あこがれランキング》とあなたが名づけた、とても大切な役目を。
「さあ、どこ行きます?」
しれっとあなたがそう言い、私はぎくりとする。
「この後、決めてないんですか?」
「え、いけませんか?」
おおお、何たる。何たる僥倖なんだろう。
喉がごくりと音をたてた(のが気付かれずにいるといいのだが。)
「どこに行きますかと尋ねられても」
私に手持ちのどんな資料があるというのだ。
ここは連れられてきた場所。だいたいおおよその見当はついたものの、
ここからどこへどう行けばいいというのか。
「それもそうですね。失礼しました。運転手さん、すみませんが、
○○へ行ってください」
「え、3時間くらいかかりますよ」
「いいです、寝ますから」
そう言うと、あなたはいきなり丸まってしまった。
親指をくわえて。
取り残された私はどうなるんだ、
これから3時間。
************************すみません、まだ続きます。どこが後編(笑)