Lと花沢類の2次創作です。BL要素を含んでいますので、あらかじめご了承くださいませ。
Lが一人旅に出ます。行き先は? それから同行者?がいるようですが・・・。
(2012-08-08 )
声をかけると、
あなたはゆっくり振り返った。
《ぜったいL〜♪》259
2012-08-08
背中から声をかけると、
あなたはゆっくり振り返った、乗り換え駅で。
「しようのないひとですね、三堂さん」
私だとわかると、開口一番のセリフがこれだ。
「なんでばれたのかな」
「私を誰だと思っているんですか」
「ごめんなさい」
「冗談です。私は誰でもありません」
あなたは笑いに転じさせるつもりか。
強い非難の口調ではなかった。
「責めないんですか」
あなたは無言だ。
「わかってすぐ、どうして言わなかったのですか」
「なぜ、あんなことをするのか、理由がしりたくて」
「私に興味があったと受け取ってもいいですか」
「それはまた別のことです」
あなたは私の言葉を無視して、電車の来る方向に目をやった。
「同行ではないです。私は一人旅に出るんですから」
「もちろん、了解していますよ、L」
螺鈿を施したジュエルケースにチョコを入れて手渡した。
盗聴するための小細工をすっかり見破られたというわけだ。
旅が終わるまで、同行者の栄誉にはあずかれないらしい。
でも、あなたが認めようと認めまいと、私は離れませんから。
あなたがそうしようと思えば、
どんなに遠い旅でも可能だろう。
なのに、あなたは各駅停車の列車にちょこんと腰掛けて、
揺られること30分。
私を振り切ろうとする様子もなくて、
さらに田舎へと向かう電車に乗り換えた。
「たまたま同じになりましたね」
白々しくそう言うと、
あなたは美しい唇にかすかに苦笑いを浮かべた、ような気がした。
「こっちに素敵なスイーツのある場所がありましたかね。
たしかあこがれランキングの旅でしたよね」
「あこがれランキングはスイーツだけではありませんから」
「でも花沢さんと当初行く予定だったのは、
スイーツを巡る旅のはずでしょう?」
「だから三堂さんも乗り気になったわけですか」
「そうです」
嘘だが。
あなたがひとり旅に出ると知って、
指をくわえて見送るわけがないじゃないか。
突然消えてしまったあなたに再会したあの日から、
こんな日がくればいいと、無邪気な夢想に自分を恥じたものだけど。
あなたはいつまでたっても謎だ。
停車した電車が動き出すまで相当時間があるらしい。
あなたの漆黒の大きな瞳は窓のそとを見ているが、
何を今思っているのか、考えもつかない。
「ねえ、L。あの頃は辛かったですか?」
その夜その夜に、そんなことを聞けるわけがなかった。
あなたは喧嘩してぼろきれになった、というような出で立ちで
たどり着いた日もあれば、
退屈でしようがないような不機嫌極まりないようすで、
寄って帰る日もあった。
私が試作したスイーツや、甘い甘いココアなんかを
その時だけ少し口元に笑みらしきものを浮かべて、口にするのだ。
私はあなたの幸せをこの一瞬だけでも、もたらすことができるかなと、
黙って、でも嬉々として用意するのだった。
待ち人来たらず、の夜も多かったというのに。
いつか、花沢類に、あなたがずたぼろだったと告げたのは、
言うまでもなく、私の嫉妬だ。
でも、あの頃、あなたに「どうしたんですか」の一言も聞けずに、
ただあなたを待ちうけ、あなたの幸せに寄与したいと思った、
純情で単純だった私を労ってやってもいいではないか。
あなたは相変わらずのだぼだぼのジーンズのポケットから、
板チョコを取り出した。
いやな予感がした。
あなたは華奢な美しい指先で包装紙を破いたが、
中のチョコはべとべとに溶けて、
すでに板チョコとは呼べない代物になっていた。
あなたはおかまいなしに、そのチョコを口にする。
ああもう、あなたは。
「口のまわりが」
「は?どうかしましたか」
細くて長い指で唇のはしに触って、
あなたは指先を眺めた。
「溶けましたね」
それからその指を舐めた。
無邪気に。無警戒に。
言うのは憚られるのだが、それはとても
妖艶な眺めでもあった。
私の質問なんかどこかに置き忘れられ、
私もあなたの様子に取り乱し、
まるでちいさな子にするように、
ハンカチで口元をぬぐおうかと逡巡する間に、
あなたは手の甲でごしごしとぬぐい、
その手をシャツにこすりつけてしまった。
「綺麗になりましたか?」
まだらに残ったチョコの顔を私に向け、
あなたは得意げに言う。
私のこころのどこかが痛んだ。
言葉にできない感情がぐっと私をとらえた。
「発車するまで時間があるようだからハンカチをぬらしてきましょう」
あなたはきょとんと首を傾げた。
殺風景な駅舎のトイレを探して、ハンカチを冷たい水でしめらした。
都会の水に較べて、水がまろやかでとろみがあるような気がする。
水菓子に使ったら、ひとを和ませそうな感触だ。
発車の音がした。
なんてことだ。
トイレを飛び出すと、電車はすでに動きだしていた。
しまった!
ひょっとして、これが私の悪戯への罰なのだろうか。
私を置き去りにするために、
あなたは計算ずくでチョコを食べたのだろうか。
それならそれで仕方がない。
元はといえば、私のやらかした悪戯のせいだ。
本来ならもっと重い罰を受けるべきなのだろうし。
ぬらしたハンカチがマヌケだなと笑ったら、
背後から声がした。
「三堂さん。すこし行ったとこにお店がありましたよ」
得意げにあなたは両手に抱えたお菓子を見せた。
「次の電車はいつになるんでしょうね」
あなたはそう言って、私にクマの絵のついたクッキーを渡した。
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また続きます。ごめんなさい、更新が遅くて。