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小泉キョウコ来訪す・・《ぜったいL〜♪》236  2010-05-02

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Lと花沢類の物語、2次創作です。
BLに免疫のない方はご遠慮ください。
相当長いです、申し訳ありません。
(既出:2010-05-02 )


小泉キョウコ来訪す・・
《ぜったいL〜♪》236 2010-05-02


花沢類からじゃなくて、
Lとか言った、
あの少年から事務所に連絡が入ったのは、
たぶん私をけん制しているから、少年が。
それとも単なるご親切。
ひまつぶしってこともありえる。でも、
少年のことは知りたいから、連絡を入れた。
実際、忘れたライターなんかどうでもいいんだけど。
少年がそれを口実にしたいと思ってる、
なんて自意識過剰よね。
でも、私はそれを口実にするわよ。

花沢類がいない日に遊びに行くと言ったら、
普通は疑問に思うのだろうに、少年は
何の感情も乗せないような声で
「お待ちしています」と言った。
会話が成立するのかしら。
でもそれでも会いたいの。
会わなくちゃいけないんだ。

少年は白いTシャツとだぼだぼのデニムを身につけてた。
「いらっしゃいませ」
まるでちいさな子が挨拶を習ったばかりみたいに、
両手を前にそろえて、深々とお辞儀した。
慇懃無礼という雰囲気はしなくて。なぜ?
やだわ、読めないの、この子のこころ。
「こんにちは。キッチン借りていいかしら」
少年は人差し指をくわえて、黙ってこくんと頷いた。
私は待たせてあったパティシェを呼んで、キッチンに向かった。
結構な広さのある白を基調としたキッチンは、とっても清潔そうだった。
お日様のひざしが入るキッチン、いいわね。
この子が料理するなんて、とてもじゃないけど思えないのに。
花沢類のためなら、いそいそ作るんだろうか。
なんか、そのギャップ、ちょっと悲しく思ってもいい?
恋がひとを取り込んでしまう悲しみ。
パティシェが道具をキッチンの調理台に並べ始めるのを見て、
私は少年を外に連れ出した。
「何が始まるんですか」
同じ目の高さで少年が聞いた。
「お土産の代わりよ。少年、あなたのために今からスイーツを
用意するの」
口元に笑みが浮かんで、少年の表情が明るくなった。
ってことは、私のせいで緊張していたのかしら。
やるじゃない、キョウコ。

私は居心地のよさそうなリビングルームに通された。
大きなモニターのまえにラブチェア。
少し離れたテーブルに置かれた2段のトレーには見覚えのある、
キャドバリーの個包装のチョコレートやナチュラルキッチンの
ミルクファッジやロココの板チョコなんかが盛られてた。
差し向かいで座ると、少年は私に勧めもしないで、板チョコに手を伸ばした。
「イギリスのお菓子が好きなの?」
「知り合いが今朝、送ってきてくれました。
 34日分に相当する量です」
澄ました顔で言う、34日?
「ふうん。それはそうと、私、花沢類が好きだったのよ」
少年は板チョコをぱきんと歯で割りながら、ちらりと私を見た。
だから、何なんですかって顔に書いてある。
「今も好きよ。なんとか言えば?」
「何と答えてほしいですか」
めんどくさそうに少年が言う。
裸足の両足をちょこんと揃えて、ひざを抱えて。
私がぼーっと眺めていたら、
「あ、失礼しました、どうぞ」
かたちだけ(って思えた)お菓子を勧めた。
「驚いたとか何とか言わないの?」
「花沢類を嫌いなひとなんていませんから」
「でも私は本当に好きだったのよ」
少年をうかがうけど、無表情のまま。
可愛くないなあ。
まあ、みんながみんな、私の挑発に乗るわけもないかもね。
「花沢類はまったく私のことを覚えていないかもしれないけど、
女の子たちにいじめられて、非常階段に逃げてたら、
しばらく横に座ってくれてた。何も話さなかったけど、
勝手な勘違いかもしれないけど、護ってもらったの。
そう思うのは自由でしょ」
少年はとても美しい指でチョコの包み紙をはがしてゆく。
「それから気がついたら制服を肩にかけてくれてたことも
あった。教室に返しておいてって、名前とクラスが書いてたけど、
そんなの、誰でもわかるのに。
花沢類を知らない子なんていなかったのに」
「有名人だったんですね」
つまんなさそうに少年は言う。
誇らしいとかは思わないんだ。
思ってやりなさいよ、彼のために。
花沢類が好きな牧野って子は、花沢類が目じゃなかった。
あんなに花沢類の愛情を浴びてて、傷つけてる女の子が、
私は許せなかったのよ。
こころのなかでこてんぱんにやっつけて、
牧野の前では笑ってたわ。
あの子は鈍感だから気づかなかった、
当たり前よ、花沢類を利用するだけの
無神経なやつなんだもの。

「少年、花沢類を愛してるのよね」
「そうですよ」
少年はひざの上にひじをつき、ここではないどこかを
眺めているようなまなざしで言った。
「それを確認しに来たの」
「なんで?」
「嬉しくなりたいし、悲しくなりたいし」
拗ねているんじゃないの。
事実そう思っているから。
「今、嬉しくて悲しいんですか。
私が思っていることがあなたに
作用を及ぼすんですか」
「ええ、そうなの」
「嬉しいというのはわかります、
悲しいというのもわかります。
でも、そうなりたいというのが意味不明です」
少年は指を噛んで首をかしげた。
扉が開いて、パティシェが顔を覗かせた。
「あ、出来上がったんですね!」
少年が部屋を飛び出した。

私が用意させたのは、アイスクリームのデコレーションケーキ。
「誕生日ではありませんよ」
「いいの。ちまちましたことが嫌いだから」
ケーキ台に載った、フルーツと生クリームいっぱいの冷たいケーキ。
「ありがとうございます」
少年は座ったまま、お辞儀をしてスプーンを突き刺した。
 
少年は美しい細い長い指で銀のスプーンを操り、
可愛らしい唇のあいだにアイスクリームを滑らせてゆく。
「実に美味しいです」
少年がお菓子を食べ続けているのを見ている。
まるで小さな子みたいだ。
唇の横にクリームがついても全く気にしない。
おい、少年。私がいること、ちゃんとわかってる?
少年はテーブルに置かれたもうひとつのスプーンに
ようやく気がついたみたいだ。
パティシェの馬鹿、大きなお世話なのに。
少年はだまってスプーンを差し出した。
「私はいいの」
食べきれないなら、捨てればいいのよ、
お菓子も幸せも。
「口のなかが少し冷たくなってきました」
少し困った顔。
ねえ、少年。あなた、ほんとに花沢類に組み敷かれてるの?
花沢類でイッちゃったりするわけ?
不思議。ほんとうに不思議。
私、この少年をどんなふうに思えばいいのかすら、
わかんなくなってくる。
でも、いい?キョウコ。
あなたは花沢類をひと目見たときから恋におちたし、
あの非常階段で、あんなふうに護ってくれたときから、
あなたの王子だったんだからね。
いつもとびきり悲しい気持ちになって、
ようやく安心して好きでいられたんだから。

「私、ひどいことを言いに来たのよ」
少年は特に私の言葉を気にするでもなかった。
まるでそんなこと言われ慣れしてるみたいじゃない。
こんなに綺麗で可愛い子なのに。
「何なんですか」
「いつか、本当に花沢類が欲しくなったら、
私がひと肌脱いでもいいわって。でもそれは、
私が、そしてあなたが、
とっても悲しくなることでもあるのよ」
少年は私の顔を見た、
それからスプーンで遊びはじめた(ように見えた)、
唇にスプーンをぺたぺたぶつけて。
「私が理解するのは難しそうですね」
「簡単よ。あなたと花沢類が認めればいいのよ。
もしも、将来、花沢類が逃げられなくなったら、
偽装に使ってもいいの、私を。私だって、
あんなに金持ちじゃないけど、家から自由になろうと
したわ。高校だって辞めたのよ。なのに、
ほとんど行かなかった高校を卒業したことに
なっているし、大学に在籍しているのよ。笑っちゃう。
そういうの、わかるの。自分のいないところで、
いろんなことが捏造されたり、ごまかされたり」
私はからだを乗り出して言った、
「ほかの女に取られたくないでしょ。私で我慢しなさい、
食ったりしないから」
「ずいぶん大胆なこと言いますね」
そう言いながらも、また、少年は
アイスクリームにスプーンをのばす。
「だから悲しくなりたい幸せになりたいって言ったじゃない。
それにこういうことはあっさり言ったほうがいいの」
「あっさり・・」
少年は口のはじにわずかに笑みをのっけた。
それがとても愛らしくて、でもどこか悲しくて、
やりきれない思いがした。
「少年」
「はい、なんですか」
「私、今、あなたを不幸にした?」
「目下解析中です。でも時間がかかるようです」
「え?」
「冗談ですよ。不幸ではありません。
それは類くんと私ではなく、あなたの問題だろうから」

少年が「あ」と声をあげ、デニムのポケットから
ケータイを取り出した。
「失礼」
ケータイを開くと、
「花沢類がもうまもなく着くと言ってます。
予定変更のようですね」
「じゃ、私帰る」
「もう間に合わないですよ。
実はメールは5通目です。しつこいんです」
「あ、黙ってたんだ」
「だって、キョウコさんが何のために来たのか
知りたいじゃないですか。ライターを返したいとは
思いましたが、あなたがそのために来るとは
思わなかったので」
少年はスプーンを握ったまま、瞳を伏せた。
私がこの子に作用を及ぼしたのかしら、なんて、
ちょっと感慨深く思ったのね。だって、宇宙人みたいなんだもの、
つかみどころが無くて。
だけど、少年は口をすぼめて言ったの、
「おなかが冷たくなってきました」

花沢類が帰ってきて、
私を見つけるとぎくってした。ように見えた。
そういうことに私は傷ついて喜ぶの。
どうでもいい相手ではなさそうだから。
でも、これも自意識過剰なんでしょうけれどね。
少年をすこし揺さぶれたならそれでいいの。
少年とはきっと、花沢類とより、話ができそうだもの。
なんて、
感慨深く少年を眺めていたら、
「類くん、ちょっとおなかが痛いです」
少年が膝を抱えたままで、花沢類を見上げた。
「え、ひょっとして、その溶けているのはアイス?」
「はい」
「またひとりで食べた?」
「食べました。美味しかったんですもん」
「もう、懲りないやつだなあ。大丈夫?
あ、ごめん。けっこう冷たいのが不得意みたいなんだよね」
もちろん、それが私のお土産だってことが花沢類には
わかっていないんでしょうけれど、
ひょっとして無理してこんなに食べたのだとしたら、
感じるじゃない、罪の意識ってやつを。
「お茶、入れようか。それくらいならできるよ、私」
「あ、いいよ。ちょっと待ってて。寝かせてくるから」
「こっちこそ、いいから。そばについてればいいじゃん」
あわてて私は立ち上がった。
「ありがとうございました」
少年が私にお礼を言うのに、花沢類が少年を連れて、
奥に消えようとしていた。
ほら、あんなにひたむきじゃないの、花沢類が。
でも今度は報われる。
報われるといいね、花沢類。
たぶん、私はいつか、少年によって招かれると思うけど・・・。




■超絶に長いの、お読みくださってありがとうございました。




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