Lと花沢類の物語。2次創作です。
BL要素を含みますので、ご興味ないお方は華麗にスルー推奨。
桜愛でたり。
《ぜったいL〜♪》257
忙しくて、家に仕事を持って帰って、
なんやかや忙殺されているうちに寝オチ。
そんな情けない日が続いて、
こないだは無精ひげを同僚に指摘された。
やば、とかいうリアクション起こすまでもなく
「あ、そう」とぼーっと返したままで。
少し余裕ができたから、
今日は家でたまった洗濯をして、部屋を片付けた。
とんでもないことになっているので、さすがにね。
コーヒーを入れて、時計を見る。
23時5分すぎ。微妙だよな。
いや、でもやっぱり、Lの元に帰ろう。
電話を入れずに帰って来たのは、
どうせ出てくれないだろうと思ったから。
もし寝ているとしたらかわいそうだしね。
メールにひとこと「帰るね」と入れたけど、
見てくれたかなあ。
ケータイはそこいらにぞんざいに置かれてるからね。
いつまでも旧式の、時代遅れのケータイ。
僕がずるずる帰るのを遅らせてしまったり、
約束を守らなかったりしたとき、使っていたケータイは
庭に埋められたり、風呂に沈められたりしたけど、
僕が反省して、そういうことをしなくなってからは、
ぞんざいに扱うくせに、そのケータイをずっと使い続けてる。
いい加減、機種変したらと言っても、
「十分です」と言って取り合わない。
そういうとこ、僕にはぐさっと来るんだよ、
君がね、せつなすぎて。
「起きてた?」と聞くまでもなかったけど。
やつはやっぱり映画を観ていた。
予告編をさんざ、見た、いや見せられた気がする。
《私的ゾンビライフ》だろ、飽きませんねえ。
「いらっしゃいませ」
「ごめん」
「いえ、冗談です。忙しいのはわかってますから」
そこにちくりという色が潜んでいれば、
きっと僕は焦るんだろうけれど、
すぐさま、冗談だなんて言って。
なんだか、すこし淋しい。
Lの横に腰を下ろせば、
「ごはん用意しますか。お風呂にしますか。
それともわたし? などという、昭和テイストのセリフを言ってみました」
と、僕の顔を見もしないで、画面に顔を向けたままで。
だから僕はキスしたんだ、
君の頭をぐいって乱暴に引き寄せて。
Lはちっちゃい子がするみたいに、
手でごしごし唇をぬぐいやがった。
そんなことをされると、押し倒すしかないだろ。
君の白Tのすそから手を入れたら、
「あ」と君が声をあげたので、
焦る気持ちを抑えて君を見上げたら、
君は指をくわえて、画面に見入ってた。
「ひさびさに食べましたね」
「ちょ、ゾンビはあとにしてくんない?」
「だって見始めたら気になりますよ」
「そ、そうかな?」
こっちが闖入者なのだから仕方あるまい、
そう思ってからだを起こしたら、
「やめるんですね」
ってそりゃないだろ。
あ、でも、
なんだか、笑ってしまった。
こうやって、やっと、いつもみたいに、
あたりまえに君と過ごす時間がうれしくて。
だから、笑ったんだけど、
君はそんな僕を不思議そうに、
いや、不快そうにとも取れる表情でちらりと見た。
でも、君のそんなところも僕は大好きなんだよ。
君は画面に目をやったまま、
「さくら・・」と言った。
「え?」
僕が聞き返したら、
「明日の雨で散ってしまいそうですよ」と
ぽつんとつぶやいた。
「あ、咲いてたんだ!」
「ばかですか」
「いや、だって、気付かなかったんだよ」
なんてこった!
「忙しくて、外を見てる暇もなかった。
ちゃんと桜は咲いてくれてたんだ」
「そうです。今年は咲き始めが遅かったですけど、
とっても元気に咲いてくれました」
ちらりとしかいつも見ないくせに。
いや、君は、僕がいないときに、
桜を愛でていたのかもしれないな。
ふと、そんな気がした、今。
僕が桜に思うことをちゃんとわかってて、
先回りして、淋しくないように、君はきっと・・。
「行こう!」
「は?」
「桜見に行こうよ」
「今からですか」
「そうだよ!」
僕は躊躇なくリモコンでモニター画面を消した。
「消されました」
君は親指をかんで、消えたモニター画面を見ながら、
ひざを抱いて座ったまま。
だから、僕はずずずとその腕を引っ張ったんだ。
僕のジャケットをLにはおらせ、
赤いママチャリを持ち出して、
Lを後ろに乗っけて、
僕はぎこぎこ、自転車を走らせる。
生ぬるい強い風が吹いて、その風が雨を運んでくるのだと思った。
風が吹くたび、どこからか、桜の花びらがたくさん、
あとからあとからやってきて、
君がちいさな弾んだ声をたてた。
「綺麗だね」
ペダルをこぎながら、僕は言った。
こんな桜も素敵だ。
桜はそちこち、誇らしげに立っていた、
妖しく花びらを月に映えさせて。
むせかえるほどの美しさと、
散りゆくいのちの悲しみと。
君は僕のからだに両腕をまわして、僕の首もとに頭を乗せた。
「花沢類、寒くないですか?」
「寒くないけど」
いや、実は薄手のニット一枚で寒かったんだ。
「でも、ぎゅーってして」
僕は甘えた。
「ぎゅー」
そう言って、君はぼくのからだにしがみついた。
今夜だけは桜のその妖艶さに屈したくない、
その悲しみにこころを奪われたくない、
そんな気がした、僕は。
「飛ばすぜ、L」
「ぎゅー」
Lがしがみつく。
「あったかいな」
「あったかいです」
僕らはまるでこどものように、
桜が吹雪くなかを走り回った。